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2007.03.08 Thu
うわっ
日付変わってるー(だいぶ前…)







午後になって雨は上がり、気を付けながら作業を進めよう、と作業が再開された。
午前中休んだウェイトも、山に入った。

二時間も作業した頃だろうか。
「居たぞー!」
と奥から声が響いてきた。
皆が奥に走る。
ウェイトも例外では無かった。
まだ息があればケアルを、とオーブを握り締めた。
土砂の中から、手が見えていた。
生気の無い左手。
おそらく生き埋めになったのだろう。
ケアルは…意味をなさないと、ウェイトにもわかった。
土砂の中さぞ苦しかっただろう、と見つめた左手の指輪に見覚えがあって、ウェイトは血の気が引いて行くのが判った。
見たくは無かった。
気付きたく無かった。
「…ロ…イ…?」
口に出した瞬間、身体中の血が沸き立った。
「ロイ!ロイ!!」
叫んで駆け寄って、握ったその手は、不気味に冷たかった。
早く出してやろうと、ウェイトは周りを手で必死に掘ったが、上からザラザラと崩れて一向に進まない。
「ウェイト、上からどけてやらにゃいかん。」
情けない位、声もあげずにただポタポタ涙を流しているウェイトの肩に、手が置かれ、ビルの声が響いた。
「ここに居るのに…。こんな近くにいるのに…っ」
悲鳴の様なウェイトの声に、ビルは目を伏せただけだった。
「ハンス、ウェイトを風に当たらせてやってくれ。」
ハンスはウェイトの肩に手をかけた。
「出よう」
静かなハンスの声に、ウェイトはただ無気力に、放心した目で頷いた。
「マリーには、まだ言うな…」
苦々しいビルの声が、ウェイトとハンスの背中に響いた。

鉱山の端の岩場で、ウェイトとハンスは座っていた。
下の広場でカズスの子供達と遊ぶフィラが居た。
「なんて、言ったらいいんだよ、フィラに」ウェイトの言葉に、お父さんに会いたいの。と言った娘の顔を思い出してハンスは視線を落とした。
フィラは広場を無邪気に駆け回っている。
その姿を眺める、マリーの姿も、小さく見えた。
雲行が怪しく、またすぐに雨が降りだす事が、予想された。
「また、雨になりそうだな」
雨が降りだしたら、また作業は中止になるだろう。
ロイを、出してやる前だとしても。
ウェイトは疲れた目でぼんやりしている。
ハンスの声は聞こえていないのかも知れない。
「ウェイト、ロイだけでもちゃんと出してやらないか?」
兄のように、ずっと一緒に居たんだから。
大事な姉の、大切な夫なんだから。
と、ハンスはウェイトを見た。
「…よな」
ウェイトの言葉の最初はハンスには聞こえなかった。
だが、ウェイトの瞳に意識が戻るのがわかる。
「そうだな…」
ウェイトは自分に言い聞かせるように言った。
「ああ。俺達でちゃんと出してやろう」
二人はゆっくり鉱山を振り返った。
戻った二人をビルが振り返った。
「目ぇ覚めた顔してきたな」
『はい』
二人の返事に、ビルは満足気に頷いた。
「ほれ、ちゃんとロイを出してやれ」
バンッと力強くウェイトの背中を叩いた。
「雨が降り出したぞー」
表から叫ぶ声。
振り返ると大粒の水滴が見えた。
だが誰も辞めようとは言わなかった。
ロイを出してやるまで。
ウェイトは、泣きながら掘っていた。
手は止まらなかったが、だけど涙も止まらなかった。


マリーにロイの死が伝えられたのは、その夜の事だった。
「マリー。いらっしゃい」
フィラを寝つかせて、寝室から出てきたマリーを、ニーナが静かに呼び止めた。
マリーは、全てを知っているような、悟った目をしてニーナを見た。
薄暗い部屋に、一人の男の身体が横たわっていた。
ニーナに聞くまでもなく、マリーは目を伏せた。
「…あぁ……ロイ…」
かすれたマリーの声に、ニーナも涙を溢した。
マリーはゆっくりロイに歩み寄って、傍にひざまづいてその冷たい手を握りしめた。

ニーナはそんなマリーの肩にブランケットをかけて、マリーを残して部屋のドアを閉じた。
ウェイトとハンスは広間に居た。
涙を手で拭って広間に戻ってきたニーナを二人は静かに見つめていた。
「早く寝なさい。
明日も…あるんだから」
ニーナが無理に作ろうとした笑顔は、泣き顔になって崩れた。
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